猫の愛らしい耳は、時に健康トラブルのサインを隠していることがあります。「うちの猫は耳を痒がっているけれど、どうすればいいの?」「耳掃除って、どこまでやってもいいの?」と悩む飼い主さんも少なくないでしょう。
猫の耳はデリケートな器官であり、誤った方法で耳掃除をしてしまうと、かえって耳を傷つけたり、炎症を悪化させたりする危険性があります。しかし、適切なケアを怠ると、耳垢が溜まって不快感を与えたり、外耳炎やミミダニといった病気を引き起こしたりすることもあります。
この記事では、猫の耳掃除の必要性から、安全で正しい耳掃除のやり方、必要な準備物、適切な頻度までを詳しく解説します。さらに、耳のトラブルの兆候や、異常が見られた際の対処法についてもご紹介します。愛猫の耳の健康を守り、快適な毎日を過ごさせてあげるために、ぜひこの記事を参考にしてください。
猫の耳の構造と耳掃除の必要性
猫の耳は人間とは異なる構造をしており、その特徴を理解することが耳掃除を安全に行う第一歩です。
猫の耳の基本的な構造
猫の耳は、外側から「外耳」「中耳」「内耳」の3つの部分に分かれています。
- 外耳: 目に見える耳介(耳たぶ)と、奥へと続く外耳道から構成されます。猫の外耳道は「L字型」に曲がっており、この構造が汚れが溜まりやすく、また見えにくい原因となります。
- 中耳: 鼓膜の奥にあり、音を増幅して内耳に伝える役割をします。
- 内耳: 音を感じ取る蝸牛(かぎゅう)と、平衡感覚を司る三半規管(さんはんきかん)があります。
私たちが耳掃除をするのは、主に外耳道の一部、特に耳の入り口付近です。L字型の外耳道の奥まで無理に掃除しようとすると、鼓膜を傷つけたり、耳垢を奥に押し込んでしまう危険性があります。
耳掃除が必要な理由
猫の耳掃除は、必ずしも全ての猫に頻繁に必要なわけではありませんが、以下のような理由から重要になります。
- 耳垢の蓄積防止: 猫の耳の中では、皮脂や古い角質などが混ざり合って耳垢が生成されます。少量であれば自然に排出されますが、過剰に分泌されたり、排出が滞ったりすると、耳垢が詰まってしまいます。
- 耳のトラブル予防: 耳垢は、細菌や真菌(カビ)の温床となりやすく、外耳炎の原因になります。また、ミミダニなどの寄生虫が繁殖しやすい環境も作り出します。
- 早期発見: 定期的に耳をチェックすることで、耳の病気や寄生虫感染の兆候を早期に発見し、適切な処置につなげることができます。
- 快適さの維持: 耳が汚れていたり、炎症を起こしていたりすると、猫は不快感や痛みを感じます。清潔に保つことで、愛猫の快適さを維持できます。
耳掃除の準備と正しいやり方
安全に耳掃除を行うためには、適切な準備と正しい手順が不可欠です。
準備するもの
- 猫用の耳洗浄液: 刺激の少ない、猫専用の耳洗浄液を用意しましょう。人間用や、アルコール成分の強いものは使用しないでください。
- コットンまたは大きめの脱脂綿: 耳の表面や入り口付近の汚れを拭き取るのに使います。綿棒は奥を傷つける可能性があるため、原則として使用を控えます。
- タオル: 猫を保定したり、液だれを防いだりするために使用します。
- ご褒美のおやつ: 頑張った後のお楽しみとして用意しておくと、猫が耳掃除に良い印象を持つようになります。
- (必要であれば)2人体制: 猫が暴れてしまう場合は、一人が猫を保定し、もう一人が耳掃除をするなど、2人で行うと安全です。
耳掃除の正しい手順
猫がリラックスしている時に行いましょう。最初は短時間で、少しずつ慣らしていくのがポイントです。
- 猫を落ち着かせる: 優しく声をかけ、撫でてあげて、リラックスさせます。タオルで体を包むと、猫が安心し、暴れにくくなります。
- 耳の外側をチェック: まずは耳の入り口や耳介の裏側など、見える範囲に異常がないかを確認します。赤み、腫れ、黒っぽい汚れ、異臭がないかなど。
- 洗浄液を耳に入れる(必要であれば):
- 猫の耳を広げ、耳洗浄液を数滴、耳の穴(外耳道の入り口)に垂らします。※耳が健康で汚れが少ない場合は、この工程は不要で、コットンで拭くだけで十分です。
- 耳の奥まで入れすぎないよう注意し、洗浄液の容器の先端が耳に触れないようにしましょう。
- 耳の根元を優しくマッサージ: 洗浄液を入れたら、耳の付け根の部分を数秒間優しくマッサージします。これにより、洗浄液が耳垢と混ざり合い、汚れが浮き上がります。猫が気持ちよさそうにゴロゴロ喉を鳴らすこともあります。
- 猫に頭を振らせる: マッサージ後、猫は頭を振って耳の中の洗浄液や浮き上がった汚れを排出しようとします。周りが汚れないように、タオルなどでガードしてあげましょう。
- コットンで拭き取る: 清潔なコットンを指に巻きつけ、耳の入り口付近や、見える範囲の汚れを優しく拭き取ります。
- 注意点: L字型に曲がった外耳道の奥まで無理に差し込んだり、強くこすったりしないでください。特に綿棒は、耳垢を奥に押し込んだり、鼓膜を傷つけたりする可能性があるので、避けるのが賢明です。
- ご褒美を与える: 終わったら、たくさん褒めてあげて、ご褒美のおやつを与えましょう。良い経験として記憶させることで、次回の耳掃除がスムーズになります。
耳掃除の頻度
全ての猫に毎日耳掃除が必要なわけではありません。適切な頻度は猫の個体差や耳の状態によって異なります。
- 健康な耳の猫: 基本的にはほとんど必要ありません。月に1回程度の軽いチェックと、耳の入り口付近に目立つ汚れがあれば優しく拭き取る程度で十分です。
- 耳垢が溜まりやすい猫: 週に1回程度、もしくは2週に1回程度、耳洗浄液を使った掃除が必要になる場合があります。
- アレルギー体質や特定の病気の猫: 獣医師の指示に従い、より頻繁なケアが必要になることがあります。
過度な耳掃除は、かえって耳の保護機能を低下させたり、刺激を与えて炎症を引き起こしたりする原因にもなるため注意しましょう。
こんな時は耳掃除ストップ!耳のトラブルの兆候
耳掃除中に以下のような兆候が見られた場合は、家庭でのケアを中断し、動物病院を受診すべきサインです。
注意すべき症状
- 耳を激しく痒がる、引っ掻く: 耳の周りをしきりに掻く、頭を振る、家具にこすりつける。
- 耳が赤い、腫れている: 耳介の皮膚が赤く充血している、熱を持っている。
- 耳から異臭がする: 酸っぱい匂い、カビ臭い匂いなど。
- 耳垢の色や量がおかしい: 黒っぽいドロドロした耳垢が大量に出る、黄色や緑色の膿のような耳垢。
- 耳を触ると痛がる: 耳掃除をしようとすると嫌がる、怒る、唸る。
- 耳の入り口に異常な塊がある: 耳の中に黒い粒々がたくさんある(ミミダニの糞の可能性)、しこりがある。
- 耳を傾ける、平衡感覚がおかしい: 頭を傾けたままにする、まっすぐ歩けない、目が揺れるなどの神経症状。
考えられる耳の病気・トラブル
上記のような症状が見られる場合、以下のような病気が考えられます。
- 外耳炎: 細菌、真菌、アレルギーなどが原因で、外耳道に炎症が起こる病気です。痛みやかゆみが強く、放置すると中耳炎、内耳炎へと進行する可能性があります。
- ミミダニ症(耳疥癬): ミミダニ(耳ダニ)が耳道に寄生して起こる病気です。激しいかゆみと、黒っぽい乾燥した耳垢が特徴です。猫から猫へ感染力が非常に強く、多頭飼育の場合に蔓延しやすいです。
- 内分泌疾患: ホルモンバランスの異常が、耳の皮膚トラブルを引き起こすこともあります。
- アレルギー性皮膚炎: 食物アレルギーや環境アレルギーが耳の炎症として現れることがあります。
- 耳血腫: 耳介の内側に出血が起こり、血が溜まって腫れ上がった状態です。激しく頭を振ったり、耳を掻いたりすることで起こります。
- 異物: 植物の種子や虫などが耳の奥に入り込んで炎症を起こすことがあります。
- 腫瘍: 稀に耳の内部に腫瘍ができることもあります。
これらの病気は、自己判断で市販薬を使用したり、無理に耳掃除をしたりすると、悪化させる可能性があります。必ず動物病院を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
動物病院での耳のケアと治療
家庭でのケアで改善しない場合や、上記のような異常が見られた場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。
獣医師による診断と処置
- 耳鏡検査: 獣医師は「耳鏡」という器具を使って、外耳道の奥や鼓膜の状態を目視で確認します。
- 耳垢の検査: 耳垢を採取し、顕微鏡で細菌、真菌、ダニなどの有無を確認します。
- 適切な洗浄: 炎症がひどい場合や耳垢が固く詰まっている場合は、鎮静剤を使用し、専用の器具で安全に耳洗浄を行うことがあります。
- 投薬治療: 原因に応じて、抗生物質や抗真菌剤の点耳薬や内服薬、炎症を抑えるステロイド剤などが処方されます。ミミダニの場合は、駆除薬の投与が必要になります。
獣医師の指示に従い、処方された薬を正しく、最後まで使用することが完治への近道です。
まとめ:愛猫の耳の健康は日々の観察から
猫の耳掃除は、愛猫の耳の健康を保つために大切なケアの一つですが、全ての猫に頻繁な耳掃除が必要なわけではありません。むしろ、過度なケアは耳を傷つけたり、炎症を引き起こしたりする原因にもなりかねません。
- 日頃から耳のチェックを習慣に: 毎日、または数日おきに、耳の見た目や匂いに異常がないか確認しましょう。
- 清潔な耳には無理な掃除は不要: 耳の入り口に汚れがなければ、基本的には触れる必要はありません。
- 耳掃除は優しく、見える範囲で: 行う場合は、猫専用の耳洗浄液とコットンを使用し、耳の入り口付近を優しく拭き取る程度に留めましょう。綿棒は使わないでください。
- 異変に気づいたらすぐに病院へ: 赤み、腫れ、異臭、大量の耳垢、激しいかゆみなどの症状が見られたら、自己判断せずにすぐに動物病院を受診しましょう。
愛猫の耳の健康は、飼い主の日々の観察と、適切なケア、そして必要に応じた専門家の判断にかかっています。大切な愛猫がいつまでも快適な耳で過ごせるよう、愛情を持って耳ケアに取り組んであげてください。

