愛らしい子猫時代、そして活発な成猫期を経て、私たちの猫もいつかは穏やかな高齢期を迎えます。猫の平均寿命が延びた今、多くの猫が7歳以上のシニア期を過ごすようになりました。しかし、年を重ねるにつれて、人間と同じように猫も様々な病気にかかりやすくなります。
「うちの子、最近元気がない」「食欲が変わった気がする」「前より痩せた?」など、愛猫のわずかな変化に気づいた時、それが単なる老化のサインなのか、それとも病気の兆候なのか、不安に感じる飼い主さんも少なくないでしょう。
この記事では、猫の高齢期に特に注意すべき代表的な病気について、その主な症状、自宅でできる対策、そして何よりも重要な早期発見のポイントを詳しく解説します。愛する猫が長く健康で、快適なシニアライフを送れるよう、正しい知識を身につけて、適切なケアをしてあげましょう。
猫の高齢期はいつから?病気のリスクが高まる年齢
一般的に、猫は7歳頃からシニア期に入ると言われています。この時期から体の機能が少しずつ低下し始め、病気のリスクが高まります。具体的な年齢の目安は以下の通りです。
- シニア期: 7歳~10歳頃(人間に例えると40代半ば~50代半ば)
- 高齢期(ジェリアトリック): 11歳~14歳頃(人間に例えると60代~70代半ば)
- 超高齢期(スーパーシニア): 15歳以上(人間に例えると70代後半以上)
もちろん、これはあくまで一般的な目安であり、猫種や個体差、これまでの生活環境によって老化のスピードは大きく異なります。しかし、7歳を過ぎたら「もう若い猫ではない」という意識を持ち、健康管理をより一層意識することが大切です。
高齢猫に多い代表的な病気とその症状・対策
高齢猫が特に注意すべき病気は多岐にわたりますが、ここでは特に発症率が高い病気を中心に解説します。早期発見のためには、日頃から愛猫の様子をよく観察し、わずかな変化にも気づくことが重要です。
1. 慢性腎臓病(CKD)
猫で最も多く見られる病気の一つで、高齢猫では特に発症率が高まります。一度壊れた腎臓の機能は元に戻らないため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
- 症状:
- 多飲多尿: 水を飲む量が増え、おしっこの量も増える。
- 食欲不振、体重減少: 食欲がなくなり、痩せてくる。
- 嘔吐、下痢: 消化器症状が見られる。
- 毛並みの悪化、口臭: 被毛がパサつき、口からアンモニア臭がする。
- 元気消失、脱水: ぐったりして、皮膚の弾力性が失われる。
- 対策:
- 療法食: 腎臓病用の療法食(タンパク質やリンを制限)に切り替える。
- 水分摂取: 新鮮な水を常に用意し、ウェットフードを活用するなどして水分摂取を促す。
- 定期的な検査: 定期的な血液・尿検査で早期発見に努める。
2. 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、全身の代謝が異常に高まる病気です。高齢猫、特に10歳以上の猫に多く見られます。
- 症状:
- 食欲があるのに痩せる: たくさん食べるのに体重が減る。
- 多飲多尿: 飲水量と尿量が増える。
- 活動性の増加、落ち着きがない: 興奮しやすくなったり、夜鳴きをしたりする。
- 被毛の乱れ、毛艶の悪化: 毛並みが悪くなる。
- 嘔吐、下痢: 消化器症状が見られる。
- 心臓の異常: 呼吸が速い、心拍数が速い。
- 対策:
- 投薬治療: 甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬を毎日投与する。
- 療法食: ヨウ素を制限した療法食を与える。
- 定期的な検査: 血液検査で甲状腺ホルモン値をチェックし、早期発見・治療に繋げる。
3. 糖尿病
膵臓から分泌されるインスリンが不足したり、うまく作用しなかったりすることで、血糖値が高くなる病気です。肥満の猫に多く見られます。
- 症状:
- 多飲多尿: 水を飲む量が増え、おしっこの量も増える。
- 食欲があるのに痩せる: たくさん食べるのに体重が減る。
- 元気消失、活動性の低下: ぐったりしている。
- 嘔吐、下痢: 消化器症状が見られる。
- 対策:
- インスリン注射: 獣医師の指導のもと、毎日インスリン注射を行う。
- 食事療法: 血糖値のコントロールに特化した療法食を与える。
- 体重管理: 適正体重を維持する。
- 定期的な検査: 血糖値や尿糖を定期的にチェックする。
4. 関節炎(変形性関節症)
加齢とともに、関節の軟骨がすり減り、炎症を起こすことで痛みが生じる病気です。気づかれにくいことが多いですが、多くの高齢猫が抱えていると言われています。
- 症状:
- 動きが鈍くなる: 以前ほど活発に動かなくなる、高い場所に飛び乗るのをためらう。
- ジャンプの精度が落ちる: 飛び乗る際に失敗したり、尻込みしたりする。
- 歩き方がぎこちない: 足を引きずる、硬い動きになる。
- 触ると嫌がる: 関節のあたりを触られるのを嫌がる。
- 寝ている時間が増える: 痛みのせいで活動が減る。
- 対策:
- 体重管理: 関節への負担を減らすため、適正体重を維持する。
- 住環境の整備: 段差をなくす、スロープを設置するなど、関節に負担がかからないように工夫する。
- サプリメント: 関節の健康維持に役立つサプリメント(グルコサミン、コンドロイチンなど)を検討する。
- 鎮痛剤: 痛みがひどい場合は、獣医師から処方された鎮痛剤を使用する。
5. 認知症(認知機能不全症候群)
加齢により脳の機能が低下し、記憶力や学習能力、判断力などが衰える病気です。人間と同じく、猫にも見られます。
- 症状:
- 夜鳴き、徘徊: 夜中に意味もなく鳴いたり、部屋の中をうろうろしたりする。
- トイレの失敗: 以前はできていたのに、トイレ以外の場所で排泄するようになる。
- 性格の変化: 攻撃的になる、臆病になる、分離不安になるなど。
- 飼い主を認識できない: 飼い主の顔が分からなくなる。
- 活動量の変化: 寝ている時間が増える、または逆に活動的になる。
- 無気力、無関心: 周囲への関心が薄れる。
- 対策:
- 安心できる環境: 生活リズムを一定にし、静かで落ち着ける環境を提供する。
- 適度な刺激: 短時間の遊びやコミュニケーションで、適度に脳に刺激を与える。
- サプリメント: 脳の健康をサポートするサプリメントを検討する。
- 対症療法: 夜鳴きなど、症状がひどい場合は、獣医師と相談して薬を検討する。
- 根気強いケア: 根気強く、愛情を持って接することが大切です。
6. 腫瘍(がん)
高齢になるほど、がんの発症リスクは高まります。体のどこにしこりが見つかったり、食欲不振や体重減少が続いたりする場合は、注意が必要です。
- 症状:
- 体にしこりやできものが見つかる。
- 食欲不振、体重減少。
- 元気消失、ぐったりしている。
- 嘔吐、下痢、血便などの消化器症状。
- 慢性的な咳や呼吸困難。
- 排泄の異常。
- 対策:
- 早期発見: 定期的な健康診断と、日頃から全身を触ってしこりがないかチェックする。
- 動物病院での検査・治療: 疑わしい症状が見られたら、すぐに動物病院を受診し、獣医師の指示に従って検査・治療を行う。
高齢猫の健康管理の基本:早期発見がカギ
高齢猫の病気は、初期症状が分かりにくく、飼い主さんが気づいた時には病気が進行していることも少なくありません。そのため、何よりも「早期発見」が重要になります。
日々の観察ポイント
- 食欲・飲水量: 食事の量や水を飲む量に変化がないか。
- 排泄: おしっこやうんちの回数、量、色、状態に変化がないか。トイレの失敗が増えていないか。
- 体重: 定期的に体重を測り、増減がないかチェックする。
- 活動量: 寝ている時間が増えていないか、遊びたがらなくなったか。
- 毛並み・皮膚: 毛艶が悪くなっていないか、フケや脱毛、しこりがないか。
- 呼吸: 呼吸が荒い、苦しそうではないか。
- その他: 口臭、よだれ、目の濁り、足腰のふらつきなど、普段と違う点がないか。
定期的な健康診断
症状がなくても、年に1回、7歳を過ぎたら年に2回程度の健康診断を受けることを強くお勧めします。特に血液検査や尿検査は、見た目では分からない病気の兆候を早期に発見する上で非常に有効です。
快適な生活環境の整備
高齢猫が快適に過ごせるように、住環境を整えることも大切です。
- 段差の解消: 高い場所への上り下りが楽になるよう、スロープやステップを設置する。
- 滑り止め: フローリングには滑り止めマットやカーペットを敷く。
- トイレの工夫: 出入りしやすい低い縁のトイレを、猫の近くに複数設置する。
- 保温・保冷: 体温調節が苦手になるため、夏は涼しく、冬は暖かく保つ。
- 安心して休める場所: 静かで落ち着ける、暖かい寝床を用意する。
まとめ:愛猫の高齢期を豊かに、幸せに
猫の高齢期は、病気のリスクが高まる時期であると同時に、愛猫との絆をより一層深めることができる大切な時間でもあります。飼い主さんが日頃から愛猫の様子をよく観察し、定期的な健康診断を欠かさないことが、病気の早期発見・早期治療に繋がり、愛猫の生活の質(QOL)を維持する上で最も重要です。
もし愛猫に気になる症状が見られたら、「年だから仕方ない」と諦めずに、すぐに動物病院に相談しましょう。獣医師と協力し、愛猫にとって最適なケアと治療を見つけることで、愛する猫が長く健康で、穏やかなシニアライフを送れるよう、私たち飼い主が最大限のサポートをしてあげましょう。

