大切な愛猫を家族に迎えたら、健康で長生きしてほしいと誰もが願うはずです。そのために「予防接種」は非常に重要な役割を果たします。しかし、「うちの猫は家から出ないから必要ないのでは?」「どんなワクチンを打てばいいの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
この記事では、猫の予防接種の必要性からワクチンの種類、接種スケジュール、費用、そして接種後に注意すべき点まで、猫のワクチンについて知っておくべきことを網羅的に解説します。この記事を読めば、愛猫の健康を守るための予防接種について、正しい知識を身につけることができるでしょう。
猫の予防接種が「必要」な理由
「室内飼いだから大丈夫」と思われがちですが、猫の予防接種は室内飼いの猫にとっても非常に重要です。その理由を詳しく見ていきましょう。
外部からのウイルス侵入リスク
完全な室内飼いであっても、外部からウイルスが侵入する可能性はゼロではありません。
- 飼い主の衣類や靴、持ち物に付着してウイルスが持ち込まれる
- 来客や動物病院への移動時など、短時間の外出でも感染のリスクがある
- 窓越しや網戸越しに他の動物と接触する機会がある
こうした経路で、愛猫が感染症に晒されるリスクは常に存在します。
万が一の脱走・災害時への備え
どんなに気をつけていても、猫が脱走してしまう可能性はあります。また、地震や台風などの災害時には、一時的に避難所生活を余儀なくされたり、自宅が安全でなくなったりすることも考えられます。
- 脱走時に野良猫や他の動物との接触機会が増え、感染リスクが跳ね上がる
- 避難所など集団生活の場では、不特定多数の動物が集まるため感染症が広がりやすい
予防接種は、こうした「もしも」の事態に愛猫を守るための、大切なセーフティネットとなるのです。
他の動物への感染拡大を防ぐため
予防接種は、愛猫を守るだけでなく、他の動物への感染拡大を防ぐという社会的意義も持っています。多くの猫がワクチン接種を行うことで、地域全体での感染症の発生を抑える「集団免疫」の効果も期待できます。
猫のワクチンの種類と特徴
猫のワクチンには、主に「3種混合ワクチン」と「5種混合ワクチン」があります。それぞれ予防できる病気が異なります。
コアワクチン(全ての猫に推奨)
コアワクチンとは、どの猫にも接種が強く推奨される基本的なワクチンです。以下の3種類のウイルス感染症を予防します。
1. 猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)
- 症状: くしゃみ、鼻水、目ヤニ、結膜炎、発熱など、人間の風邪に似た症状。重症化すると肺炎を起こすことも。
- 感染経路: 感染猫との直接接触、飛沫感染。
- 特徴: 症状が治まってもキャリア化し、ストレスなどで再発することがあります。
2. 猫カリシウイルス感染症(FCV)
- 症状: 口内炎、舌の潰瘍、くしゃみ、鼻水、発熱など。関節炎を起こすこともあります。
- 感染経路: 感染猫との直接接触、飛沫感染。
- 特徴: 猫ウイルス性鼻気管炎と症状が似ていますが、口内の症状が特徴的です。
3. 猫汎白血球減少症(FPL)
- 症状: 食欲不振、嘔吐、下痢、発熱、脱水など。子猫が感染すると致死率が非常に高い恐ろしい病気です。
- 感染経路: 感染猫の排泄物との接触、汚染された食器や器具を介して。
- 特徴: 非常に感染力が強く、環境中でも長時間生存できます。別名「猫パルボウイルス感染症」とも呼ばれます。
上記3つを予防するのが「3種混合ワクチン」です。
ノンコアワクチン(必要に応じて推奨)
ノンコアワクチンは、猫の飼育環境や生活スタイルによって接種が推奨されるワクチンです。コアワクチンに加えて、以下の感染症を予防します。
4. 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
- 症状: 免疫力の低下、貧血、リンパ腫、白血病など、様々な症状を引き起こし、最終的には死に至る重篤な病気です。
- 感染経路: 感染猫の唾液、血液、尿などを介した接触感染(グルーミング、ケンカ、食器の共有など)。
- 特徴: 特に多頭飼育や屋外に出る猫、他の猫と接触する機会が多い猫に推奨されます。
5. 猫クラミジア感染症(Chlamydiosis)
- 症状: 主に結膜炎、目ヤニ、まぶたの腫れなど。重症化すると肺炎を起こすこともあります。
- 感染経路: 感染猫との直接接触、飛沫感染。
- 特徴: 子猫や多頭飼育の環境で発生しやすい傾向があります。
上記5つ全てを予防するのが「5種混合ワクチン」です。
狂犬病ワクチンについて
日本では狂犬病予防法により犬への狂犬病ワクチン接種が義務付けられていますが、猫への接種は法律で義務付けられていません。日本は狂犬病清浄国であり、国内での感染リスクは極めて低いとされています。しかし、海外渡航をする猫や、極めて特殊な環境下での飼育の場合は検討されることもありますが、一般的な室内飼いの猫には不要です。
猫のワクチン接種スケジュールと費用
猫のワクチン接種には、適切なスケジュールと費用がかかります。
一般的な接種スケジュール
子猫と成猫で接種スケジュールが異なります。
子猫の場合
母猫からの移行抗体(免疫)が切れるタイミングに合わせて、複数回接種するのが一般的です。
- 初回接種: 生後2ヶ月齢(8週齢)頃
- 追加接種: 初回接種から3~4週間後
- 3回目接種(必要に応じて): 2回目の接種から3~4週間後(特に環境リスクが高い場合や、獣医師の判断による)
その後は、免疫を維持するために年に1回の追加接種が推奨されます。
成猫の場合
子猫期に適切なワクチン接種を完了している猫は、通常、年に1回の追加接種が推奨されます。ただし、ライフスタイルや獣医師の方針によっては、3年に1回の接種で十分と判断されるケースもあります。
- 完全室内飼いで他の猫との接触がない場合: 3種混合ワクチンを3年に1回など、獣医師と相談して頻度を調整することもあります。
- 屋外に出る猫や多頭飼育の場合: 5種混合ワクチンを年に1回接種することが推奨されます。
※ワクチンの効果持続期間には個体差があるため、接種頻度についてはかかりつけの獣医師とよく相談し、愛猫の状況に合わせた最適なスケジュールを決定することが大切です。
ワクチン接種にかかる費用
ワクチン接種は自由診療となるため、動物病院によって費用が異なります。あくまで目安ですが、以下の通りです。
- 3種混合ワクチン: 4,000円~7,000円程度
- 5種混合ワクチン: 6,000円~9,000円程度
初回接種や追加接種で複数回必要となるため、子猫の場合は数万円程度の費用がかかることも考慮しておきましょう。また、別途診察料がかかる場合もあります。
ワクチン接種前の確認事項と注意点
ワクチン接種は愛猫の健康を守る大切な行為ですが、接種前にはいくつかの確認事項と注意点があります。
猫の健康状態の確認
ワクチンは健康な状態の猫に接種することが大原則です。接種日には必ず以下の点を確認しましょう。
- 食欲があるか: いつも通りの食欲があるか確認しましょう。
- 元気があるか: 遊びたがらない、ずっと寝ているなど、普段と違う様子はないか見極めましょう。
- 熱はないか: 触った感じが熱い、ぐったりしているなどの異常がないか確認します。
- 下痢や嘔吐がないか: お腹の調子が悪い場合は接種を延期すべきです。
- 目ヤニや鼻水がないか: 風邪の症状がある場合は接種できません。
少しでも体調が悪いと感じたら、無理に接種せず、獣医師に相談して延期することを検討してください。体調が悪い時に接種すると、ワクチンの効果が十分に発揮されないだけでなく、副反応が出やすくなる可能性もあります。
レボリューションなどの外部寄生虫予防薬との関係
レボリューションなどの外部寄生虫予防薬は、通常、ワクチン接種と同日に投与しても問題ないとされています。ただし、獣医師によっては接種日とずらすことを推奨する場合もありますので、念のため確認しておくと安心です。
ワクチン接種後の注意点と副反応
ワクチン接種後は、愛猫の様子を注意深く観察することが非常に重要です。
接種後の安静と観察
接種後は、自宅で安静に過ごさせましょう。以下の点に注意してください。
- 接種当日の入浴・シャンプーは控える: 体力を使う行為は避けましょう。
- 激しい運動や遊びは控える: ストレスや疲労を最小限に抑えます。
- 他の猫との接触を避ける: 免疫が十分にできるまでの期間は、他の猫との接触は避けましょう。
- 接種部位の観察: 接種した場所が腫れていないか、痛みがないか確認します。
- 食欲、元気の観察: 普段と変わった様子がないか、こまめにチェックしましょう。
接種から数時間は特に注意が必要です。
起こりうる副反応(副作用)
ワクチン接種によって、まれに副反応が出ることがあります。多くは軽度で一過性のものですが、重篤なケースもあります。
軽度な副反応
- 発熱: 体温が一時的に上昇することがあります。
- 食欲不振・元気消失: 接種後、一時的に元気がなくなり、食欲が落ちることがあります。
- 接種部位の腫れ・痛み: 接種した場所が少し腫れたり、触ると痛がったりすることがあります。
これらの症状は、通常1~2日で自然に治まります。もし症状が長引いたり、悪化するようであれば、すぐに獣医師に連絡してください。
重篤な副反応(アナフィラキシーショックなど)
ごくまれに、以下のような重篤な副反応が起こることがあります。
- 嘔吐、下痢: 頻繁な嘔吐やひどい下痢。
- 顔面の腫れ、かゆみ: まぶたや口元が腫れたり、体をかゆがったりする。
- 呼吸困難: 呼吸が速い、苦しそうにしている。
- 虚脱、ぐったりする: 意識がなくなり、呼びかけにも反応しない。
これらの症状は、接種後すぐに現れることが多いです。もし上記のような症状が見られた場合は、すぐに動物病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。緊急を要する事態です。
ワクチン関連肉腫について
非常に稀ではありますが、猫のワクチン接種部位に「ワクチン関連肉腫(VAS)」と呼ばれる腫瘍が発生することがあります。これはワクチンに含まれるアジュバントという成分が関係していると考えられていますが、詳しい原因はまだ特定されていません。発生率は極めて低い(数万頭に1頭程度)とされていますが、接種部位にしこりが見つかった場合は、必ず獣医師に相談してください。
まとめ:愛猫の健康のために予防接種を検討しよう
猫の予防接種は、愛猫を様々な感染症から守り、健康で幸せな生活を送るために非常に重要です。室内飼いの猫であっても、ウイルス感染のリスクはゼロではありません。
ワクチンの種類、接種スケジュール、費用、そして接種後の注意点について正しい知識を持ち、愛猫のライフスタイルや健康状態に合わせて、かかりつけの獣医師とよく相談しながら最適なワクチンプログラムを検討しましょう。
予防接種は、愛猫への愛情表現の一つです。大切な家族の一員である猫が、これからも元気に過ごせるよう、積極的に予防接種を検討してみてはいかがでしょうか。

